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散歩中、季節外れのその花に惹かれ、手折った事が私の過ちだったのでしょう。
柘榴石を削いだ様な、深く澄んだ緋色でした。つんと反り返った花弁と、細く糸引く蕊。すんなり伸びた茎の頂に、嫣然と咲き誇る姿は、燃え盛る焔にも似て輝かしかった。
彼岸花。花頃を差しての名ですが、まさしく彼の岸を冠すべき花でした。触れたら熱いかも知れない。そう思った時、手は花首の下にありました。ちくり、針刺す程の痛みが指を噛み、私は花の正体を知ったのです。
反り返った肢たちが擬死を解き、膝をつく私を抱き止めました。蕊はするする伸びて糸になり、幾重にも包み込まれた私は、まるで繭の中の蛹でした。
あるいは網の中かも知れません。
「おかえり」
頤をなぞる冷たい指を、絡み付く柘榴石の眼差しを、拒む事が出来ないのです。恐らく幾度も逃げては、暦の巡る度、舞い戻ってしまうのです。
口付けは、冬の乾いた風と、甘い毒の味がしました。
柘榴石を削いだ様な、深く澄んだ緋色でした。つんと反り返った花弁と、細く糸引く蕊。すんなり伸びた茎の頂に、嫣然と咲き誇る姿は、燃え盛る焔にも似て輝かしかった。
彼岸花。花頃を差しての名ですが、まさしく彼の岸を冠すべき花でした。触れたら熱いかも知れない。そう思った時、手は花首の下にありました。ちくり、針刺す程の痛みが指を噛み、私は花の正体を知ったのです。
反り返った肢たちが擬死を解き、膝をつく私を抱き止めました。蕊はするする伸びて糸になり、幾重にも包み込まれた私は、まるで繭の中の蛹でした。
あるいは網の中かも知れません。
「おかえり」
頤をなぞる冷たい指を、絡み付く柘榴石の眼差しを、拒む事が出来ないのです。恐らく幾度も逃げては、暦の巡る度、舞い戻ってしまうのです。
口付けは、冬の乾いた風と、甘い毒の味がしました。
ファンタジー
公開:20/11/16 19:39
散歩道で見た
シーズン3₋⑨
緋糸の呪縛
ギリシャ神話
ハーデースとペルセポネー
和風アレンジ
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO
ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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