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その珈琲と出会ったのは近所の寂れた喫茶店に興味本位で立ち入ったのがきっかけだった。
メニューは珈琲1つだけ、マスターに聞くとお客さんに合わせた珈琲を挽いてくれるんだとか。
試しに頼むと華やかな香りだが少し酸っぱい初恋の様な味の珈琲が出てきた。また別の日に珈琲を頼むと父がよく飲んでいた慣れ親しんだブレンドコーヒーの様な味が、また別の日は仕事で失敗した時に先輩と飲んだ缶コーヒーの味がと様々な味の珈琲が出てきて次はどんな味にありつけるのだろうかと通う頻度が増えて行った。
珈琲を飲む様になってきた時からだろうか何故だか記憶が曖昧になってきた、初恋の人の顔や父との何気ない会話、落ち込んでた時に掛けてもらった先輩の言葉。
心の奥底でこの珈琲は何かがおかしい、止めなくてはならないと警鐘が鳴っている。
それでもあの珈琲の魅力に抗えず、私は今日もあの寂れた喫茶店のドアノブに手をかけた。
その他
公開:20/11/18 00:35

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