成長期

　絵が売れない。それは、画家を目指すA子にとって、死活問題だった。
「あの子の絵は、売れ残ったら二度と売れないんですよ」
　偶然聞いてしまった、師匠の言葉。昨日からずっと脳裏を離れない。作品作りもはかどらず、作業台で頭を抱えた。
「私の絵、下手ってことなのかな。お客さんのニーズが、常に変わってるってことなのかな？」
　考えれば考えるほど、悪い方向に思考が向かってしまう。埒が明かない。
　翌日、先生やクラスメイトから、悩みがあったら相談してね、と声をかけられた。
　これ以上、周りに心配をかけるわけにはいかない。A子はとうとう、師匠に言った。
「売れ残ったら売れない、ってどういう意味ですか」
　師匠は驚いた様子で、数秒沈黙。そして、優しげな笑みを浮かべた。
「一か月前の絵と、今の絵を並べると、どうしても見劣りするからだよ。君は着実に成長し続けてるからね」