時空タクシー

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 あと10分で成田に着かなければならない。電車で2時間かかる場所にいるのに。ヨーロッパ一人旅はもう諦めざるを得ない。フライト時間を間違えた自分が悪いのだが、とにかく一刻も早く空港に向かおう。
 慌てて乗り込んだタクシーの運転手が言った。
「今から5、6分で着くと思いますよ。これ時空タクシーですから」
 景色はめまぐるしく変化した。甲冑を着た武士が激しく切り合ったかと思えば、建設途中のピラミッドの前で奴隷たちが巨石を引き、ティラノサウルスとトリケラトプスが戦っている。
 急に窓の外が真っ暗になった。すぐそばで煌々と燃えさかる地球が見えた。そして全ての空間が丸ごと収縮したかと思うと、ある瞬間、突如としてはじけ飛び宇宙が誕生した。
「4分24秒。間に合いましたね。旅行、楽しんで下さい」
 微笑みかける運転手に、髪も髭も車のフロアシートにつくほど伸びた僕が答えた。
「旅はもう十分です」
ファンタジー
公開:20/11/17 14:21

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