伊東線風景(復路)

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 伊東駅。桜紅葉の照り映える朝9時前のような昼間近。上り電車のベンチシートに座ると、男性がトランク、女性がリュックという二人連れがボックス席に並んだ。男性が、話しかける女性を無視して窓を向いて目を閉じると、女性は右手でスマホを操作しながら、左手でリュック側面の網ポケットに入っているグミを取り出そうとする。だが一緒に入っている薬瓶が邪魔だった。宇佐美で乗ってきた老人が、その二人の前の席へ黙って膝を割り入れる。その後ろのボックス席は空なのだが、真っ赤なニット帽がくたりと置いてあるのだ。
 女性がようやく赤いグミを取り出してマスクをずらすと口紅が赤い。網代で乗ってきた女性が、扉口に立っていた女性に「久しぶり」と声をかけ、「まだあのケーキ屋さん?」と尋ねると、真っ赤なコートを抱えた女性が「今は来宮の病院なの」と言って、老人と一緒に来宮で降りた。僕は、残った女性は御茶ノ水まで行くのだと思っている。
その他
公開:20/11/13 11:59
更新:20/11/13 12:26

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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