14
8

紅白、昭和三色、山吹黄金…毎日のように池を眺めていたら種類が分かるようになった。「錦鯉、お好きなんですね。」優しい声の主はお坊さん。「ちょっとこちらへいらっしゃい。」僧侶について寺の奥の小さな庵に入ると、がらんとした六畳間の真ん中に織機が置かれていた。「ここでお待ちください。」僧侶が去ってしばらく後「失礼します」と襖が開いて紋付袴の男性が入ってきた。ペン ペン ぺぺペン。男は織機の椅子に座ると目を閉じて三味線を奏で始める。ピンシャン シャシャシャーン…神に捧げる雨乞いの祈りのような三味線の音色に、光の糸が雨のように宙から降り注ぐ。と、糸はしゅるしゅると織機を舞う。ツー トントン。ツレテン ツレテン ツレテレテレ…機織りと三味線の音が重なり、美しい錦の織物が織り上がる。錦乞い…美しい錦を目に焼きつけておこうと身をずらす。と、光の向きの変化に錦の色が微かに変わり、鯉のシルエットが見え隠れした。
ファンタジー
公開:20/11/11 19:55

マーモット( 長野県 )

初投稿は2020/8/17。
SSGで作品を読んだり書いたり読んでもらえたりするのは幸せです。趣味はほっつき歩き&走り(ながらの妄想)。
 

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容