鏡の中の翼

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 祖父から貰った鏡には時折白い羽が映る。その事実に気づいたのは、T氏が齢50を越したあたりだった。
 例えば家の庭。現実には何も落ちていないのに、鏡で映すと確かに羽が落ちている。
「あれ? よく見ると庭の外にも」
 羽は等間隔に落ちていた。追っていけば何かを見つけられるかもしれない。
「羽の持ち主を見てみたい」
 機械的に家と会社を往復するT氏に、目的が生まれた瞬間だった。
 T氏は30年務めた会社を辞め、羽を追う旅に出た。最初は徒歩。電車を乗り継ぎ、日が暮れたら宿に泊まる。
 様々な土地を、気が遠くなるほどの時間をかけて廻った。
 そして、無人島にたどり着いた。島の中央が終点らしかった。
 T氏の鏡に姿を現したのは、女神だった。
「私のことを内緒にする代わり、何か願いを叶えましょう」
「俺は一生、あんたの軌跡を追っていたい」
 女神は微笑み、飛び去った。白い羽を点々と残して……。
SF
公開:20/11/12 19:07
更新:20/11/11 19:08

ゆぅる( 東京 )

お立ち寄りありがとうございます。ショートショート初心者です。
拙いなりに文章の面白さを追求していきたいと思って日々研究しています。
よろしくお願いします!

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