縁をはさむ

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チョキ、チョキ。
試しに紙を切ってみる。見た目は何の変哲もないキッチンばさみである。
「これがそれ??」
「うん」
「さあ、始めよう」
ドキドキしながら、手あたり次第に空間を切ってみる。「チョキ、チョキ」という小気味よい音だけが鳴り続ける。
しばらくすると、グッとはさみが固まる。
見つけた。
一旦息を吐き、力を込める。グググッと言って刃が軋む。
「―――ダメだ。硬い、硬すぎて切れない」まるで鋼鉄のようだ。
「ほら、やっぱり」彼女はいたずらっぽく笑っている。
会社の健康診断で引っ掛かり、その時には僕の病気はかなり進行していた。
僕との縁を切って、新しい人生を歩んでもらう。そう思って取り寄せた縁切りばさみ。
彼女との縁は病気程度では切れないことがわかった。
「本当にこんな僕で良いの?」
「もちろん」
僕は改めて勇気を振り絞る。
「結婚しよう」
肩を震わせている彼女を僕は抱き締める。
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公開:20/11/11 17:33
更新:20/11/11 17:34

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