地中に僕の実

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いちょう並木を歩く僕の頭に銀杏の実が当たり、そのまま体を通過して足の裏に抜けたものだから僕の中で実が擦れて嫌なにおいがする。
「先輩が好きです」
知らない女の子がそう言って僕の手をとった。あたたかい手だ。女の子はそのまま僕の手を自分の背中に導いて、僕が女の子を抱きしめる形になった。
夕暮れのいちょう並木を冷たい風が吹き抜けて、女の子は僕の頭の穴を優しく塞いでくれる。
「食べてほしい梅干があるの」
この子は一体誰なのだろう。
「今までで一番の出来だから、まず先輩に食べてほしくて」
「いいの?」
「だから強く抱きしめて」
だからがよくわからないけれど僕は女の子を強く抱きしめた。
2個目の銀杏が僕の頭の穴に見事に落ちてゴルフのカップインみたいな音がした。
僕は何の先輩なんだろう。
足裏の地中に押し出された僕の一部に聞けば、この子や僕のことがわかるはず。僕はワインオープナーで地中の僕を引き抜いた。
公開:20/11/11 15:38

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