ご円がなかったということで

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「発注書に書いた数字にね、円がなかったんだよね。それで……向こうの通貨だと勘違いされてしまってね。支払いは膨大な額さ。うちにはどうあがいてもそんなお金はない。つまり――もうダメってことさ」
 電話の向こう側からは、どうにもならない状況に笑うしかない、という様相が伝わってきて、私はそれ以上強く言うこともできず、電話を切った。
 目の前にはさっき届いたばかりの内定取り消し通知。慌てて電話をかけたせいで、まともに目を通してもいない。せっかくだから……と最後まで読んでいったとき、その中の一文に私は思わず目を見張った。
『今回は、ご円がなかったということで……』
 流石に誤字に過ぎないのだろう。最初はそう思った……思ったけれど、この一文が私の中の導火線にじわじわと火をつける。ふつふつと怒りがわき上がるのを感じる。よし、決めた。絶対に許してやらない。私にもそれなりの「円」を用意してもらおうじゃないか。
青春
公開:20/11/12 11:45

たけのこ

たけのこです。
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