貸切展望風呂と知恵の輪

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 貸切展望風呂は予約制ではなく、各階のエレベーターの前に「入浴中」と「入浴可」が表示されるシステムになっている。だが、それで「入浴可」を確認してから風呂へ行っても間に合わないに決まっている。だから風呂の前で待っている。
 そう考える人は大勢いるらしく、脱衣所の前には大量の知恵の輪が置いてある。しかし深夜2時ともなると大半が「使用済」で、「未使用」の箱には難しそうなものしか残っていない。
 「簡単に解けてしまっては時間つぶしにならないから丁度いい」と思って始めたのだが、かれこれ4時間もやっているのに全く外れる気配がないし、風呂にも人の気配がない。
「知恵の輪を外さないと風呂から出られないのではないか? 知恵の輪をカチャカチャすると、風呂で誰かが身悶えるのではないか?」
 カチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャ
 「入浴可」が点灯した。だがもう、どうでもいい。
その他
公開:20/11/11 23:05

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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