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喉が痛い。
唾を飲み込むたび、あらゆる気力を奪う痛みが咽頭を走る。

うんざりだ。
普段口にしないのど飴を舐め続け口の中がべたべたした甘みで満たされ気持ちが悪い。

スマホが振動する。会社からだ。
わかってる。忙しいのは。そもそも連日の徹夜がなければ体調だって崩さなかったかもしれない。

鼻をかみ、ティッシュを丸めてくずかごに捨てる。
「もしもし」

「今日、何? 休むの?」
「はい」
「仕事なめてんの?」
「いえ」
「熱は?」
「……八度五分」
「ほんとに?」
「ほんとですよ」
「スケジュール遅延してるの判ってるだろ? 熱出してる場合かよ」
「すみません」

スマホを布団の上に放り投げる。
咳をしながら暗い天井を見上げる。頭が痛い。
背の高い影がさっきからこちらに笑いかけてくる。

「人間やめます?」
「悪くないかも」
僕は咳き込んで、小さく笑った。

頭の奥で、何かが千切れる音がした。
ホラー
公開:20/11/12 07:00
更新:20/11/12 06:52

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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