良薬朽ちに似たり

「長さん。自殺の線ですか？」
若手刑事は眉間にしわ寄せ遺体の顔を覗き込んだ。
「そう急ぐな。仏さんの足取りは知ってるだろ」
「…はい。前日に通院してます」
鑑識官が若手刑事に話しかける。
「長さん。第三者の指紋は無いようです」
「そうか…じゃあ自分の意思で大量の痛み止めを飲んだのか」
西日が差し込む窓辺へ近づく。ベランダは掃除が行き届いていた。
「後は理由ですね…」後ろから声が肩を叩いた。
掌で頭に纏わりつく考察を拭い去るように顔を拭う。
「これは自殺じゃなく事故だ。仏さんは人一倍健康に気を使っていた。通院先の医師に話を聞いてくれ。
診断に楯突いたりで揉めていたはずだ。アレだ、モンスター何とかだ。医師の処方を無視して自分で判断して飲んだんだ。良かれと思って」
若手刑事は複雑な表情で返事をし出ていった。

昔、落語か何かで聞いたと思しき言葉を呟いていた。
「健康の為なら死んでもいい…か」