巡る

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山奥に一軒の養蚕農家がある。桑を育て蚕に与え繭から糸を紡ぐ。その糸は太陽の光を浴びるとキラキラと輝き、風のように透き通って見えた。
年に一度、空から買い付けにやってくる。天井の人たちの着物や雲の補修に使われるらしい。

月に何度か買い物のために山を下りる。重たい米や酒を運ぶとき、空の人たちが手伝ってくれる。雲で作った籠に荷物を入れ運んでくれるのだ。
「ほら、ここ。あなたの糸で繕ったところです。ここだけキラキラしているでしょ。ハート型にしてもらったのよ」そう言って嬉しそうに笑う。
「私の母は、あなたのお父さんが紡いだ糸で織った羽織をとても大切に着ています」

「親父はまだ私の糸を使ってはくれないのかな?」ポツリと漏らすと
「先日、『なかなか良い糸だ』とおっしゃってましたよ」と教えてくれた。

「お帰り父さん。重たかっただろう?」
息子はまだ空の人のことを知らない。
そろそろ教えようかと思う。
その他
公開:20/11/10 11:02
ゆかり

いづみ( 東京 )

文章を書くのが大好きです。

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