平和な国

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 あの国は異様なほど平和だった。
 怒りを鎮静化する薬品が開発され、国王は接種を義務化。次世代になると、薬の副作用からか、最初から怒りを持たぬ子が生まれた。
 こうして、全ての諸問題を、怒りではなく論理で、言い争いではなく対話で解決する国家が誕生した。
「家族が野党に殺されても怒らないんですか?」
「ただただ驚き、嘆き悲しむだけです。我々にとって『怒り』の感情は、古に滅びた神々の伝承にも等しい存在。無縁です」
 犯罪も、怨みによる犯行がない分、ずいぶんと少ないらしい。
「戦とは無縁ですね」
「ええ。他国が争いのために使っている財を、我が国では全て国民のために使うことができます」
 事実この国の人々はみな満ち足りているように見えた。
 私も住みたい位だと、その時は思った。

 だから、あの国が滅びたのは残念でならない。侵略された際、怒りを知らぬ彼らは、決して武器による抵抗をしなかったそうだ。
SF
公開:20/11/09 21:32
更新:20/11/10 08:45

ゆぅる( 東京 )

お立ち寄りありがとうございます。ショートショート初心者です。
拙いなりに文章の面白さを追求していきたいと思って日々研究しています。
よろしくお願いします!

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