えんかつ屋

ふらっと入ったとんかつ屋。
就職が決まらずへこんでいても、お腹はへる。
「就かつ定食、お待たせ」
えっ？普通のとんかつじゃん。
食べてみると、香ばしく揚がり、噛むほどに旨味と笑みが溢れた。
「うちのとんかつは色んな縁を担げますように、運気も揚がりますように、が売りでね。がんばりなよ」
快かつな女将さんに戸惑ったけど、私の内定はとんとん拍子に決まった。
そこから私の人生はからっと変わった。
潤滑油の揚げ物で胃もたれする人間関係とは無縁に、分切りキャベツは優柔不断な性格をシャキッと変え、しじみ汁を飲めばしみじみと幸せを味わえた。
後は良い人と出逢えたらなぁ。

「久しぶり」
声をかけられたのは、恋かつ定食を食べたとき。
『先輩？』
高校時代の憧れの人だった。先輩もここの常連だなんて！
レアめに揚がった牛かつみたくアガっていく私。
突然の再会に胸がギュウっとして、ほっぺたも恋にも落ちる味がした。