ゆかりの鏡(六)

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理解して、自分の中で折り合いをつけるのに、ずいぶんと掛かった。
川に落ち、昏睡から覚めたら二十歳になっていた。長さにして十年以上。気持ちが身体に追い付かず、苦しくて辛くて不安で、いっそまた溺れたいとさえ思った。
そうすればもう一度、ゆかりの鏡は繋がるかも知れない。
恐らく、二度とは戻って来られないだろうが。
十九歳で止まった時間。同じ様に溺れながら、僕は浅瀬に引っ掛かり、兄ちゃんは下流で発見された。端から帰れるわけがない。兄ちゃんの身体は、遥か昔に骨になっていた。

現実逃避だったのかも知れない。
罪の意識から、目を逸らしたかっただけかも知れない。
兄ちゃんが最後まで握っていたラジコンヘリ。渋る父さん、嫌がる母さんを説得し、同じ物を探して墓前に供えた。兄ちゃんの誕生日、一度も贈られなかったプレゼントを。次の年も、その次も、そのまた次も。
ただ繰り返し、繰り返し、僕の時間だけが過ぎていった。
ファンタジー
公開:20/11/09 14:05

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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