ゆかりの鏡(五)

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固まったまま、僕は看護婦さんやお医者さんに囲まれ、無理やり寝かしつけられた。
僕は身代わりだ。この体は僕じゃなくて兄ちゃんなんだ。ゆかりの鏡が、僕と兄ちゃんの中身を逆転させたんだ。説明しても誰も信じてくれなかった。もちろんお父さんもお母さんも。
目が覚めた時、お母さんは僕の名前を呼んだ。今も呼び続けて、前と同じに僕の世話を焼く。自分の子どもは僕だけだって言わんばかり。兄ちゃんなんて、最初から存在しなかったみたいに。
実際、おかしいのはお母さん達じゃなく、僕の方だって分かってる。
ゆかりの鏡は、確かに二つの世界の縁を繋いだと思う。でも、逆転して入れ替わったわけじゃない。
そっくりだけど反転した鏡の像。あっちで過ごした長さの分、こっちの時間もたってた。
似てるけど同じじゃない、鏡の中の兄ちゃん。
二十歳まで覚えてたら――

新聞を見て知った。
昏睡から覚めたあの日は、僕の二十歳の誕生日だった。
ファンタジー
公開:20/11/09 14:04

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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