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痛い。苦しい。川から出たいのに、身体はどんどん沈んで行く。まるで本物の鏡みたいに、水面はどこまでも静かで。
頭を押さえつけた腕が引いた。兄ちゃんの目がじっと僕を見てる。怒ってるみたいな、笑いをこらえるみたいな、本当は泣き出す寸前の目。
『ごめん』
水の中の声は、ぷくんとあぶくになって弾けた。
「……これで帰れる」
兄ちゃんの声は、なぜかはっきり聞こえた。
僕を離した手が、ぼろぼろのヘリを握ってる。川の奥へ、流れの向こうへ沈んで行ったラジコンヘリ。浅い方へ流された僕と入れ違いに、兄ちゃんが握りしめたまま――
分かってた。
わざとじゃない。今捨てたんじゃない。探して拾ってくれたって、ちゃんと分かったのに。
全部僕のせい。僕がいたせいで兄ちゃんは、
「ゆかりの鏡の表裏。ここに一人残れば、片方なら帰れるんだ」
伸ばした手は、鏡の裏を引っかいただけだった。
緑に染まった鏡の底、白いベッドがひとつ。
頭を押さえつけた腕が引いた。兄ちゃんの目がじっと僕を見てる。怒ってるみたいな、笑いをこらえるみたいな、本当は泣き出す寸前の目。
『ごめん』
水の中の声は、ぷくんとあぶくになって弾けた。
「……これで帰れる」
兄ちゃんの声は、なぜかはっきり聞こえた。
僕を離した手が、ぼろぼろのヘリを握ってる。川の奥へ、流れの向こうへ沈んで行ったラジコンヘリ。浅い方へ流された僕と入れ違いに、兄ちゃんが握りしめたまま――
分かってた。
わざとじゃない。今捨てたんじゃない。探して拾ってくれたって、ちゃんと分かったのに。
全部僕のせい。僕がいたせいで兄ちゃんは、
「ゆかりの鏡の表裏。ここに一人残れば、片方なら帰れるんだ」
伸ばした手は、鏡の裏を引っかいただけだった。
緑に染まった鏡の底、白いベッドがひとつ。
ファンタジー
公開:20/11/09 14:02
更新:20/11/09 14:33
更新:20/11/09 14:33
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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