ワレモノ座布団

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「お邪魔しまーす。あ、ネコ飼ってるんだ」
「コタローって言うんだ。適当に座って」
 と言ってはっとした。そう言えば一か所ダメなところがある。彼女はまさにそこに座ろうとしていた。
「ストーップ!」
「え?」
 彼女はぽかんと口を開ける。今は亡き落語家、本郷亭社楽師匠が愛用していた座布団が、長年の努力でやっと手に入ったのだ。でもそれを言ったところで納得してもらえないだろう。慌てて言い訳を考える。
「えっと、それワレモノなんだよ」
「ワレモノ? 座布団なのに?」
「いや、ただの座布団じゃない。明治からの骨董品で状態はいいものの、生地は触れると崩れるくらい繊細。だからワレモノ」
「ふーん」
 今朝届いたばかりだからしまい忘れてしまったのだ。片付けようとした時、コタローがやってきてその座布団の上にぴょんっと飛び乗り、丸まってしまった。
「何よ、やっぱり割れないじゃない」
「いや、今俺の心が割れた」
その他
公開:20/11/07 17:56
ワレモノ 彼女

空条浩( 北海道 )

諦めかけた創作活動を再開し、しがみついている20代サラリーマン。ショートショートを読むのも書くのも好きです。最近は「WEB小説だからできること」を追求中。noteにも投稿してます。

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