続・紐をひく者

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「私なら元祖の紐を引くわ」
病床の母は私の書いたごく短い小説を読み終えるとそう言った。
太平洋上に天から垂れ下がる二本の紐。一方には本家。もう一方には元祖と書かれている。パン船に乗った主人公は悩んだ末に、本家の紐を引いて海に沈んだ。
「だいたい何で紐を引くのよ」
同じく病床の妹は昔から私に好戦的だ。
「地球を明るくしたかったの」
「紐で?」
「蛍光灯の明かりみたいに」
「今はリモコンでしょ」
確かに病室のLEDはリモコン操作で紐など垂れ下がってはいない。
私たち3人は同じ病室の隣りあうベッドに横たわって解熱するのを待っていた。
本家と元祖。
罹患した順番を争い身内を責めるのは間違っている。我が家にウイルスが来訪した。ただそれだけのこと。
私たちは太平洋に浮かぶ冒険者だ。いつか食べたいパンに乗り、紐を探して夢をみる。
霧の彼方に一本の紐。引けば地球は快方に向かう。
その紐には総本家の文字。
公開:20/11/08 11:38

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