私、鏡、私

4
7

 鏡の中に入れたらいいのに。

 時々そんなことを考えるのは、私以外そう少なくもないだろう。
特にそれは気持ちがズンと重たくなった時。

 置かれた家具、右側にあるドア、本棚にぎっしり詰まった小説、壁に貼られた何枚もの写真。
全てが反転して映る鏡に、向こう側はこちら側の私とは違う生活をしているのではと、期待してしまうのだ。

 向こう側はこちら側の私とは違う、悩みなんてこれっぽっちもない「私」なのでは、と。

 もしも入れたのなら。

 そう思って、クローゼットに取り付けられた細長い姿見の前へ立つ。
そして右腕を力なく上げ、そっと指先から手のひらへと鏡に触れ、向こう側の私と手を重ねる。

 重ねたところから順々に、鏡の中へと波紋を広げてぬめり込んでいく——ところを想像した。

 もちろん、そんなことにはならない。

 そしてまた、力なく右腕を下ろすのだ。

 こちら側が鏡の中だと知らずに。
ホラー
公開:20/11/08 07:00
400字

十六夜

こんにちは 「いざよい」です。
ただただ好きで小説を読んだり書いたりしている高校生です! 
お気に入り、コメントを頂き感謝です(⋆ᵕᴗᵕ⋆)"

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容