豆腐タクシー

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「にがい話してください」
そのタクシーに乗った途端に運転手が言った。
行灯は十二。知らない名だが料金は安い。
相乗りの同僚と首を傾げていると「早く!車体が崩れる!」と叫ぶ。
「今朝のコーヒーにミルク入れ忘れて」
「そういうのじゃ2キロも保ちません」
聞けばこのタクシーは豆腐でできていて、乗客のにがい話で車体を保っているらしい。
私は学生時代の偽ラブレターの話をし、同僚は亡くなった母親と煙草の話をした。
「いいですね、にがいですね」
運転手は上機嫌でスピードを上げる。
「この調子でお願いします」
「まだやるのか」
「安さには理由があるのです」
同僚が奥さんとのすれ違いエピソードを語り始める。
「いやそれはお惚気」
「にがいというより甘いのでは」
シートに体が沈み始め床が崩れる。とそのとき、運転手が何か言った。
途端に車体ががっちり固まった。
一体なにを。確かめたかったが怖くて聞けなかった。
ファンタジー
公開:20/11/04 12:07

工房ナカムラ( ちほう )

ボケ防止にショートショートを作ります

第二回 「尾道てのひら怪談」で大賞と佳作いただきました。嬉!驚!という感じです。
よければサイトに公開されたので読んでやってください。

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