なれそめ寿司

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「そろそろお前も、なれそめ寿司をやったらどうだ」
ここ最近、父ちゃんはおれの結婚を急かしてくる。
なれそめ寿司とは、この村の風習のひとつだ。
愛する人を想いながら、発酵食品の「なれ寿司」という郷土料理を作る。できあがったなれ寿司を、愛する人のもとへ持っていきプロポーズをする。なれ寿司が発酵しているほど、強い縁で結ばれるらしい。
おれは、父ちゃんに言われた手順で魚をさばいた。あとは発酵を待つだけだ。

三ヶ月後、取り出したなれ寿司は異臭を放ち、腐っていた。
より発酵させるために、一ヶ月でいいところを三ヶ月も待ったからだろう。
「父ちゃん、なれ寿司腐らせちまった」
「結婚はできる。実は父ちゃんも、腐ったなれ寿司でプロポーズしたんだ」
おれは安堵の表情を浮かべる。父ちゃんはつづけた。
「ただ、その縁は腐れ縁になるんだ。普段の父ちゃんを見ていれば分かるだろ? つまり、尻に敷かれて逃げられないのさ」
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公開:20/11/05 18:38

日常のソクラテス( 神奈川 )

空想競技コンテスト銅メダル『ピンポンダッシュ選手権』
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X (twitter):望月滋斗 (@mochizuki_short)

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