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小さな部屋。男女が集まっている。
簡素な椅子に座っている男がふいに咳をする。その隣で立っている女も咳をする。
この部屋に一緒にいる事が何かの間違いのように。
部屋には窓のようなものはなく、かすかに聞こえる雨音が静かにリズムを刻む。遠くで何かの鳴き声がする。盛りのついた猫かもしれないし、違うかもしれない。それは、誰にもわからない。
時間だけが過ぎていく。何かを待っているのかも知れないし、そうではないのかもしれない。向かいの席の老人があくびをする。飽きたように。それは、今の状況にかも知れないし、人生にかも知れないし、はたまた、あくびのフリなのかもしれない。
小さな男の子がおもちゃの車を一生懸命に床に走らせている。何かの使命のように。
ふいに、小さな歓声があがる。それは何かの誕生なのかも知れないし、もしくは最期なのかも知れない。
皆の顔に安堵の色が浮かぶ。
「世界は美しい。」と誰かが呟いた。
その他
公開:20/11/05 16:43

ソフトサラダ( 埼玉 )

時折、頭をかすめる妄想のカケラを集めて、少しずつ短いお話を書いています。コメントは励みになります。

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