紐をひく者

2
4

世界中の冒険者が地球のために一本の紐を探している。
その紐は太平洋上のどこか、天から垂れ下がっているらしい。
かつてその海域には灯島という岩場があって、地球の明るさを調整する人々が暮らしていたという。
大航海時代にその島の所有をめぐる戦争が起きて岩場は破壊され、その後、風に流れた紐のたらりを見た者はいない。
女川の港を出て8日。
だんだん船が柔らかくなってきた。世界に一本だけの紐は己の命を賭けた真の冒険者にこそ見つけられる。だから私は自分で焼いたパンで船をつくった。
海鳥が舳先のラスクや乾パンをついばみ、水を含んで柔らかくなるたびに、私は小型のパンに移って冒険を続けた。
数日後、最後のバターロールで漂流する私の前についに紐が現れた。紐はなぜか二本あり、一方には本家、一方には元祖とある。
3日悩み、私が本家を引くと、パンパカパーンと音がして、あとは何も起きなかった。
その後地球はどうですか。
公開:20/11/05 16:22

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容