冬の綿菓子

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 泣いていたあの時、私に綿菓子を買ってくれたのは。

 星も凍りついてしまいそうな寒い冬の夜。昨日降った雪が町中を埋め尽くしている。私は白い息を吐きながら3歳の弟を連れて公園に来た。コートもマフラーも着けていない。
「寒いよね、大丈夫?」
「さむい」
 弟は私に抱きついてきた。小さくて柔らかな体はそれでも少し温かかった。
「こうしていると少しあったかいね」
 ママは男の人を連れてきた時、必ず私たちを外に出した。夏の日差しが照りつける夏も、今夜みたいな凍える冬の夜も。
「お姉ちゃんがぎゅってしててあげるから、眠りな」
 弟は私の胸に顔を擦りつけて目を閉じた。そのままもう目を開けなかった。
 私は弟を膝に乗せたまま、公園の柵に積もった雪を食べる。とてもお腹が空いていた。雪は綿菓子みたいだけど冷たくて甘くない。涙が溢れ出る。
 あの時私に綿菓子を買ってくれたのは、ママだった。優しくて、大好きな。
その他
公開:20/11/05 09:53

深月凛音( 埼玉県 )

みづき りんねと読みます。
創作が大好きな主婦です。ショートショート小説を書くのがとても楽しくて好き。色々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
猫ショートショート入選『ミルク』
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞『ハチ公、旅に出る』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[節目]入賞『私の母は晴れ女』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[縁]ベルモニー賞『縁屋―ゆかりや―』

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