一期ニ会。

ギターの弦みたいに空気がピンと張り詰められた病室。キングオブ癌の膵臓癌で余命半年を宣告されていた52歳の父が永眠した。残された家族のために、モルヒネを酷使しながら再入院する直前まで仕事場へ向かった実直さと、聞き分けのない少年みたいに病室の冷蔵庫にタバコを隠し持っていたアホさ。それらを象徴するかのような純朴なとぼけた死に顔があなたらしくて笑えるよ。

瞬く間に駆けつけた主治医と葬儀屋に挨拶を済ませ白い塔の外に出たら、世界は静寂の真夜中。睦月の冷気なんて忘れるくらい、暗い暗い澄み切った空が悲しみをさらっていく。本当の痛みは遅れてやってくるものだと初めて知った。

そのニ年後の命日。父が息を引き取った同時刻に陣痛が始まった。そして健康優良児の娘が誕生した。だから私は寂しくなんかない。
笑い声が溢れる騒がしい夜が続きますように。娘の名前は「明るい夜」と書いて明夜（あや）と読む。