空模造紙

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夕方、近所の公園を散歩していると、片手に杖を持った老人がベンチに腰を下ろしていた。
老人は、長くて白い髭を生やした仙人のような風貌で、夕焼けに染まる秋の空を眺めながら唐突に話し始めた。
「空にはもともと色がないんじゃ。それで、この模造紙に絵の具で色を塗ると、ほら今見ている空とそっくりじゃろ。これは空模様を造形する『空模造紙』というものじゃ」
老人が模造紙に描いた空の風景は、実際の空模様とそっくりな水彩画だった。てっきり眺めた空を写生したものかと思ったが、模造紙の中で空が動いていて、その動きも実際の空と同じだった。
「絵の具は黄昏色を使っているんじゃ。空の色を作るさまざまな顔料を混ぜてできているんじゃ」
おもむろに老人は、模造紙に向かって「パチン!」と指を鳴らした。
すると、模造紙に描かれた空の水彩画と実際の空が金色に輝き始めた。
「日没直後に残光が照らす『マジックアワー』になったんじゃ」
ファンタジー
公開:20/11/03 07:13
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SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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