母の皺

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苺狩りの映像だった。
ビデオテープの中の私はおそらく幼稚園児だ。
満面の笑みで苺を頬張っていた。

帰省すると懐かしビデオの鑑賞会になった。
車で栃木に旅行した時のものだ。
気恥ずかしくも眺めていると、急に思い出した。

土の匂いと独特の雰囲気。
踏みしめる大地がふかふかとしていた。
色がいいものを選びなさい、という母の声に従ってグラデーションが綺麗なものを食べた。
厳選した苺は白が多く、赤が少なった。もちろん、すっぱい。
練乳をたっぷりとつけて。いや、練乳を飲んでいたと記憶している。

「この時あなた練乳ばっかり飲んでいて」
母が懐かしそうに笑う。
「お父さん、自分も甘党なのにあなたに練乳分けてあげてたわね」
視線が自然と仏壇に向く。
そこには練乳をかけた苺が置いてあった。
テープの中の両親はまだ若く、私も子供だ。

「母さん、今度一緒に苺狩りに行こう。私の練乳分けてあげるよ」
その他
公開:20/11/03 02:15

雨森れに( 東京 )

色合いの綺麗な物語を紡ぎたい。
シーンごと切り取られた刹那。
不思議、恋愛、ファンタジー、怪談、純猥談などをチラホラと。
中身はお酒が好きなアグレッシブ。

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