王様の耳は

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「王様の耳はロバの耳ー!」
 町から少し離れた森の中で、彼は思いっきり叫んだ。彼の叫びは風に運ばれて、森中に、町に、ついには王都に届いた。
 そして何が起こったかと言えば……特に何も起こらなかったのである。 

 彼は数日前にこの町に辿り着いたばかりの旅人だった。
 いや、辿り着いたという言い方は正しくないかもしれない。降り続く雨と疲労感に耐えきれなかった彼は、ぬかるみで立ち往生していた荷車たちの一つに忍び込んだ。そうして気が付いたらこの町にいたのだ。
 その日はちょうど王様が町へ買い物に来ていたらしく、通りは見物客で大賑わいだった。
 が、そんな喧騒が耳に入らない程に彼は混乱していた。どこを見ても、ロバ、ロバ、ロバ。そして彼自身もその中に溶け込んでいたのだから。

「王様の耳はロバの耳ー!」
 彼は思いっきり叫んだ。自身の秘密を隠しつつも今の気持ちを少なからず表せる言葉はこれだけだった。
ファンタジー
公開:20/11/03 19:55
更新:23/03/24 06:03
ファンタジーというか、 ホラーな気が……

久寓

(玖寓→久寓に変えました)

読むのが好きです。
書くのは好きだけど苦手です。

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