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外階段を登るヒールの音がした。上に住む青年を訪ねて来たようだ。
仲直りしたのか、そう思った。

春先、その青年は世慣れない様子で引っ越しの挨拶に来た。
いつからか足繁く通うヒールの音が響くようになり、ときおり聞こえる笑い声を微笑ましく思っていた。
ある夜ひどい諍いの声がした。泣き叫ぶ甲高い声。駆け下りる足音。

それが一週間前のことだ。
気を揉むことはなかったかとホッとしたとき、上でまた諍いが始まった。頬を張るような音。高く険しくなる女の声。座り込むような音が床を叩く。長い長い啜り泣き。低い男の声。

次の日の夕方、段ボールを抱えた青年と階段のしたでばったり会った。
「買い物かい?」
「友達とキャンプに行くんで、その荷物をいろいろ」
段ボールの隙間からブルーシートとなにかの木の柄が見えた。
軽く会釈して階段を登る後ろ姿を見送りながら、ハッとした。

そういえば。帰る足音がしなかった。
ホラー
公開:20/11/02 10:47

工房ナカムラ( ちほう )

ボケ防止にショートショートを作ります

第二回 「尾道てのひら怪談」で大賞と佳作いただきました。嬉!驚!という感じです。
よければサイトに公開されたので読んでやってください。

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