廻り仔猫

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 月の輝く夜の出来事。部活の帰り道を歩くと、仔猫が蹲っているのを見つけた。

 その仔猫は右前足を怪我している。急いで駆け寄り、小さく裂いたハンカチを巻きつけてやる。

 すると、仔猫は弱々しく顔を上げ、じっと私を見つめていた。

 言葉を発する訳でもないのに。私は不思議と仔猫の気持ちがわかった。この仔は私に会いに来てくれたのだ。切なさを滲ませた声音で一声鳴き、仔猫は私の側から離れ、茂みの中へ姿を消した。

 それきりこの仔猫の姿を見ることはなかったが、予感がした。きっと、また会える。

 十年後、愛する人と家庭を持ち、私は娘を産んだ。ふくふくとした手に触れ、ふと気がつく。

 生まれた娘の右手には、あの時の子猫と同じ、小さな傷があったのだ。

 月日は巡り、言葉を覚えた娘は、じっと私を見つめて口を開く。


「また会えて嬉しい」

 懐かしい人に会えたかのように。娘はそう、言葉を紡いだ。
その他
公開:20/11/02 22:53

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