きのこなべ

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 典座の友人に「きのこ鍋を食べにいらっしゃい」と誘われた。典座というのは、禅寺でご飯をつくる役のことだ。
 お寺の客間で、わたしは彼と、鍋を介して向き合った。
 コトコトプツプツブクブクゴポゴポ
 落し蓋が上下すると味噌の香りと暖かな湯気が部屋に立ち込める。
「実は、きのこってあまり好きじゃないんだ」
「おや。宇祖田さんには好き嫌いがない印象でした」
「食べられるよ。ただ、物語りを感じてしまって」
 コトコトプツプツブクブクゴポゴポ
「それはどのような?」
「きのこって、いろんな形があって、それが物言わぬモノたちからにょきにょき生えるのって、そういうモノたちの無念さが、そんな形をとって現れたんじゃないかって気がするんだ」
「言葉?」
「ううん。むしろ言葉がきのこなんじゃないかって……」
 コトコトプツプツブクブクゴポゴポ
「業をきのこに成仏する、と」
 彼が蓋を取ると、中身は湯豆腐だった。
ファンタジー
公開:20/11/02 17:10
宇祖田都子の話

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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