黒猫のいたずら

今日は、個性的なハロウィン衣装に身を包んだ人達で溢れている。
「トリックオアトリート！」
「ハッピーハロウィン！」
夜の街を支配し、日頃の鬱憤を晴らすかのように、満月に向かって叫んでいた。

私は猫耳を付け、黒いドレスを着て、黒猫に化けた。
この鋭い爪で、いたずらしちゃうぞ。
「にゃー」
…なーんちゃって。

皆は笑ったり、写真を撮ったりして楽しそうだ。
私は、その光景を独りで見ている。
友達がいないわけではない。
ただ、独りでいたかっただけだ。

「好きな人が出来たんだ。だから…ごめん」
別れは一瞬で呆気なかった。
時間が経つにつれて、じわじわと色んな感情が迫ってくる。

だからかもしれない。
遠くの街まで逃げ、賑やかな楽しい光景を見て、誤魔化したかったのだ。
でも、黒猫に仮装出来ても、心まで仮装は出来ないらしい。

赤いマニキュアで染めた爪で、人、街、満月を引っ掻き、傷をつけてやった。