雲の鳥

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「雲でできた大きな鳥が、空を飛んでたんだよね」
彼女は事あるごとにこの話をし、その度にバカにされ続けてきた。
雲の鳥を見たのは、幼稚園児の頃だったという。
幼稚園の近くにある広場で遊んでいたときのこと。
ふと空を見上げると、鳥の形をした雲が浮かんでいた。
小さな頭に鋭そうなクチバシ、体からは2つの大きな翼が生えていた。
鳥のように見えるというレベルではなく、紛うことなき鳥だったと彼女は言う。
しばらく釘付けになっていたが、雲の鳥は突然翼を動かし羽ばたいた。
そのまま山の方へと飛んでいき、やがて見えなくなった。
彼女が雲の鳥を見たのはその一回だけだったそうだ。

「ママ、今日は見れるかな?」
「どうだろうね」
彼女は顔を空に向けたまま娘の頭をなでた。
「心が奪われるほどの綺麗な鳥、早く見たいね」
僕は本心でそう言った。
娘は頷く。
彼女はまだ空を見たまま「あ」と呟いた。
公開:20/10/31 19:29

田坂惇一

ショートショートに魅入られて自分でも書いてみようと挑戦しています。
悪口でもちょっとした感想でも、コメントいただけると嬉しいです。

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