意味不明文のイタズラ

言ったらその通りになるのが俺の能力だけど「パンが空中に浮いて高速で婆さんを総攻撃」みたいな暴力は良くないってわきまえてる。
だからパン屋の婆さんにはこうイタズラする予定だった。「パン屋がたばこ臭い」って。よく「たばこ臭くてパンがまずくなるわ！」って店の裏庭でぷはぷは吸う旦那の爺さんに注意してたけどもう爺さんは死んだ。
あ。今まで「息を吹くと5m先の女子高生のスカートが捲れる」とか「一瞬エスカレーターの昇りと下りが逆になる」とか意味の通る文を唱えてイタズラしてきたけど意味不明な文にしたらどうなる？
パン屋着。俺は入口の引き戸を静かに引いて隙間から「パン屋がばたこ臭い」と唱えた。
奥の座敷でTVを視ていた婆さんが呟き出した。「あーいい匂い。毎朝爺さんと早起きしてお手製のバター作ってたの思い出すわあ」婆さんが泣き出した。多分俺は良い事をした。けど残念。ばたこ臭いは体臭じゃなくてやっぱバターかよ。