檻のなか

・・輪廻転生。カンガルーに生まれ変わった。それも動物園の。前世で動物園の動物は食料も住居も不自由なく何と恵まれているのだと思ったが、転生ってそんな気持ちが関係するのか。
朝からぞろぞろと人間がやってくる。檻のなかから見るのも飽きた。仰向けに寝て空を見ている。
時間になると餌がくるがこれも飽きた。美味くはない。腹が減るので食うだけだ。
檻では五、六回のジャンプで柵にぶつかる。雨をしのぐ室内もあるが、やはり退屈だ。広い草原を走りたい。
俺の横にはメスが一頭。こいつと交尾したのは三度ほど。子どもが産まれすぎるのを避けるのか、発情期には別々の部屋に入れられる。今はメスに何も感じない。ときには、檻を清掃する飼育員のお姉さんを後ろから襲ってやろうかと思ったりはするが。
息苦しい檻のなかだが、ここ以外に行くところがないと思うとこれほど楽なところはない。炎天下に太ったメスと二人で惰眠に落ちるのも楽しい。