忘れられない男がいる

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優しくて、孤独な人だった
海辺の町の、街道に面した平家に一人で住んでいた
玄関を開けると、昔小さな食堂をやっていたらしい、広々とした土間のような空間があった
土間は物置として使われていた
奥の座敷には遺影が並び
ダイニングへの廊下の床はギシギシと音を立てた
暮れの青い光がさすそこで彼を待ち、エビフライを作る後ろ姿
ワクワクと手元を覗き込む
畳の居間にはアイロン台と、パンツプレス機
スーツのまま肩肘で頭を支え、テレビを見ている彼に、抱っこをねだる
キスが対価になると無邪気に笑って
彼のベッドの横のカーテンレールには南の国の音がする飾りが揺れていた
枕元にはクリスマスプレゼント
サンタにもらったと報告をした
ローラースケートに似たそれを、何度転んでも、使っていた
自転車は土間に、ゲーム機は廊下に

七輪で焼けた肉をとりわけ
優しく頭を撫でる
ワインの匂いがして
母とキスをする

彼が好きだった
その他
公開:20/11/01 02:02
更新:20/11/22 22:24

kashiku

ショートショートや、詩を思いつき次第のっけます。



noteもやってます

https://note.com/machi_kashiku

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