人格スーツ

　人格スーツを着れば、思考の選択肢を減らし最適な行動をとることができる。
「……憂鬱だ」
　T氏は大きなあくびをしながら、会社から支給された『仕事』の人格スーツに着替えた。直後、背筋をピンと伸ばし、テキパキと出社の準備を開始。
「余裕をもって会社に行かなければ」
　『仕事』スーツを着ると、思考の主語に『最高の仕事をするには』がつく。さらに、『仕事』以外の選択肢が思い浮かばなくなるのだ。お陰で、最高の集中力を維持できる。
「準備は入念に、任務は着実に」
　T氏は標的へ向けて、光線銃を向けた。
　ターゲットは、「俺たち親友なのに！　会社の命令だからって！」と叫び続けている。T氏は無視して引き金に指をかけた。
「私は決して、私情を挟まない」
　煙る銃をホルスターに仕舞う。
　仕事を終えたT氏は家に着くと、『仕事』スーツを脱いだ。あふれる涙をぬぐうと、『無感情』のスーツに着替え、布団へ潜った。