廻る寿司 ゆかり

10
7

とある路地裏に佇む一軒屋、廻る寿司 ゆかり。バーのような薄暗い店内には四角いカウンターが1つ。「こんばんは」。ご主人の優しい声に緊張が少しほぐれる。店内には僕の他に一人客が3名。
「1947年 佐原」注文を聞いた主人は、カウンター内のトランクからサクを取り出しスーッと切る。お櫃からシャリを取り上げササッと握ると、それを蓮の葉にのせ、周りを流れる水の上へと放す。ご主人の手を離れた寿司が水の上をゆったりと移動し客の前に流れつく。客はそれを手に取り口へ運ぶ。味わい深い寿司なのだろう。客は目を閉じたまま幸せそうな笑みを浮かべている。
この店では、客の注文に縁のあるネタを握ってくれる。種や産地、年度を指定して味わうもよし、詳しく指定せず新たな出会いを味わうもよし。時間をかけて味わう客が多く、時には涙を流す者もいる。店の回転率はすこぶる悪いが、定価より多くの支払う客も多く、なんとか店はまわっている。
公開:20/10/30 16:36
更新:20/10/30 16:46

マーモット( 長野県 )

初投稿は2020/8/17。
SSGで作品を読んだり書いたり読んでもらえたりするのは幸せです。趣味はほっつき歩き&走り(ながらの妄想)。
 

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容