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「ばあさん」
「なんだね、じいさん」
「お前、いつからわしのこと『じいさん』呼ぶようになった」
「あんただって、いつから自分のこと『わし』呼ぶようになったの」
茶碗からあがる湯気を眺めて、じいさんは考える。
「わし、いつから『じいさん』になったんだろうな」
うっすら残る白髪を撫でて、じいさんは言う。
「昔は、ハンサムな『兄さん』だったのになあ」
「そうだったかね?」
「お前と出会う前の話だ」
「戻りたいかね」
「そうだなあ…」
じいさんは考える。昔のことを思い出す。
ばあさんと出会った日は、雪が降っていた。
結婚式の日は、雨だった。
長女が生まれたのは桜が咲く春の日で、次男は銀杏が色づく秋の日だった。
二人とも立派に成長して、巣立っていって、
数十年ぶりに、ばあさんと二人きりになった。
「私は、戻らんくてもええけどね」
「わしも、ええわ」
恋愛
公開:20/10/29 23:23
更新:20/10/29 23:24
恋愛 日常

木林木犀

不思議な物語が好きです。
好きな花は金木犀です。
よろしくお願いします。

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