月を見上げる兎

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月を見上げている兎がいた。
「どうしたんだい?」
「お餅が足りないのです」
「餅?」
「月へ帰るために、お餅の力が必要なのです」
「月?」
「私は月で餅つきをしていたのです。月へ帰りたいのです」
兎があまりにも目を真っ赤にして哀しげな顔をしているものだから、僕は餅を与える事にした。

翌日、兎は相変わらず月を見上げていた。
「どうしたんだい?」
「まだまだ足りないのです」
「餅がかい?」
「はい」
兎の力になれるならと、僕は餅を与える事にした。

それから数ヶ月が過ぎた。
兎はやはり月を見上げている。
「まだ足りないのかい?」
「そうですね」
「心なしか体が大きくなったね」
「お餅の力ですかね?」
「首も長くなったような……」
「お餅を待ち望んでいるのです」
「鼻も長くなったような……」
「う、嘘は付いていませんよ」

のちに兎は【幻獣】として名を馳せる事となるのだが、それはまた別のお話。
その他
公開:20/10/29 23:00
『つ』から始まる『幻』 そるとばたあTwitter企画 #ことば公園

壬生乃サル

まったり。

2022年…3本
2021年…12本
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2019年…219本
2018年…320本 (5/13~)

壬生乃サル(MiBU NO SARU)
Twitter(@saru_of_32)

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