望郷鏡

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都内にある瀟洒な雑貨店を訪れたときのことだ。
年代物の望遠鏡があったので手に取って覗いてみると、遠い昔に見覚えがある光景がセピア色に映っていた。それは間違いなく私の故郷だ。
驚いて店主に尋ねてみると
「望郷鏡という品です。どこにいても故郷に思いを馳せることができるお値打ち品ですよ。
望郷鏡の接眼レンズに付いているダイヤルを回してみてください。あなたにご縁のあるものが楽しめますよ」
ダイヤルを回しながら覗いてみると、さまざまな故郷の光景が現れ、新天地へ向かう場面でダイヤルは止まった。
望郷鏡を買い求め、自宅で取り憑かれたように覗いて懐かしんでいたが、それには飽き足らず、実際に故郷を訪れることにした。
どこも当時の面影はなかったが、望郷鏡のお蔭で行きたい場所をめぐることができ、気持ちは十分に満たされた。
思い残すことなく故郷から戻って望郷鏡を覗くと、魔法が解けたように普通の望遠鏡になっていた。
その他
公開:20/10/30 19:39
望遠鏡 セピア色 望郷 故郷 接眼レンズ ダイヤル 新天地

山田衆三( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育ち、大学時代は京都(御所の近く)、大学院時代は湘南(海ではなく山側)で過ごす。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年06月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。

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