料理は仕込みありき

気にくわねえ。今日も遅れてきたくせに、キッチンを見回していつもの小言だ。

「あー、駄目ダメこれ。焼き色が甘いよ。世界中どこの料理だってリソレは基本でしょうに」

くそっ。言い方がいちいち鬱陶しい。三つ星帰りがそんなに偉いのかね。煮込む前に表面焼いときゃいいんだろ。調理はすべて理論ね。はいはい。やばっ。目が合った。

「これは誰です？セミドライって言いましたよね。乾物の仕込みだって、素材に火を入れるって理屈は同じ。焼いてるんですよ、遠くから太陽の熱で。ほら、あそこなんかも全然駄目。あんなに重ね合っちゃって」

くどくどうるせーな。もちろん最初は散らばらせてたんすけどねー。

「なに、まさか文句あるの？ろくに仕事も終わってないのに。もう結構です。地球は天日やめてオーブンに切り替えて」

まじかよ。せっかく今までじっくりやってたのに。俺は唇を噛みつつ、エベレストを右にひねって予熱を上げた。