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ある夜、隣に住む元魔女の女が林檎をくれた。
「魔女がりんごって、そのままじゃないですか」
「嫌なら返して」
翌朝、朝食にフルーツも悪くないと思い、まな板の上に件のりんごを乗せて、ピーラーを手に握った。
いざ皮を剥くためりんごを手に取ろうとすると、手足がにょきにょきと生え、立ち上がった。
「かわはぎだ!」りんごは叫んだ。
「そんな、人聞きの悪い」
りんごはがたがた震え始めた。
「どうかひとつ、見逃していただきたい!」
僕は思案げに目を背けた。
「だけど、他に用意もないしね……」
「殺生な!」
いつのまにか、りんごに髭と眼鏡がついている。
「うーん、わかったよ、それじゃあ他のにするよ」
僕は戸棚下を開け、何かないか見てみた。
ホッとして寝転び、肘をついたりんごに、すばやく包丁を振り下ろす。
「彼女にはいつも手こずらされるな」
様子を見ていたバウムクーヘンたちが、身を寄せ合って震えていた。
ファンタジー
公開:20/08/29 06:44

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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