歯たちのつぶやき

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今日も歯科医院はにぎわっている。そこでは、決して人には聞こえない井戸端会議が日常茶飯事だ。例えばこんな具合に。

「お前たちの主はいいよな。ちゃんと磨いてくれて。オレたちの主なんか毎晩、酔っ払ってそのまま寝ちゃうからすぐ虫に食われちまう。銀のカツラが増える一方さ」

「オレたちの仲間、実は入れ歯だらけ。入れ歯って何を話しかけても無言だからつまんないよ」

最近は人の都合で、歯たちの容姿が勝手に変えられてしまうようにもなった。必要以上に白くされたり、タトゥーを彫られたり。生まれたままの姿を愛する歯たちはストレスを溜め込み、やがて自衛策を講じるようになった。

歯科医院でレントゲンを撮られる一瞬、歯たちは主の口から幽体離脱する。息を潜めて時を待ち、「この人なら」と見初めた主が口を開けた瞬間、そこに乗り移る。

人が歯を思いのままにできるというのは大きな勘違い。歯が人を選ぶ時代を迎えたのだ。
その他
公開:20/08/27 18:00

ふみなか( 東京 )

40代半ばの会社員。家族は妻、中3息子、小6娘。つらつらと文章をつづるのが好きです。読んでいただけたら嬉しいです。

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