二酸化初夏

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 友人が珍しい気体を入手したというので、見せてもらうことにした。
 初夏の空気を濃縮した気体、二酸化初夏というらしい。これをジュースなんかに混ぜると、夏の爽やかさを感じられる炭酸飲料ができるのだという。
「飲んでみな」
 差し出されたそれを貰って、早速飲んでみることにする。
「わ、すごいな」
 飲んだ瞬間に窓の外の景色が、夏の景色のように鮮やかに変化して見えた。
「これを飲むと、目に映る景色全てが初夏のそれのように見えるんだよ」
 彼は得意げに話す。
 いくらか持っていくか? と訊かれたので一本だけ容器に移したものをもらうことにした。
 ……それにしても。
 彼の部屋の中に散らばる無数の空容器。
 それら全てが恐らく二酸化初夏を使った飲み物だったのだろう。なかなかの量だった。

 彼は未だ夏の中に囚われたままなのかもしれない。
 季節が過ぎて、冬になった街の中を歩きながらそんな風に思った。
ファンタジー
公開:20/08/27 11:12

たけなが


たくさん物語が作れるよう、精進します。
よろしくお願いします!

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