優しいあの子は…

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借金取りのようにブルーシートを叩く雨が上がった。
夕暮れ時の河川敷、『我が家』で空腹に膝を抱えていると、突如ブルーシートの裂け目から小さな手が覗いた。
「ひぃっ」
驚く俺に声は言った。
「おじさん、食べて」
おにぎりやお菓子の入った袋を受け取り、すぐに外に出たが子供の姿はどこにもなかった。

子供は毎日やって来たが、一度もその姿を見とめる事なく半年が過ぎていた。
NPOの援助で仕事に就けた俺は、あの子にお礼を伝えようと仕事帰りには河川敷に寄った。
見覚えのある袋を持った男が川を見つめて立っている。
「もしかして、あの子のお父さんですか?」
驚いた男に半年間の出来事を話すと、男は嗚咽をあげて泣き崩れた。

一年前、子供がこの川で亡くなったという。
父の持ってきた自分へのお供え物を毎日俺に食べさせてくれていたようだ。
俺はあの子に生かされた事に感謝し、十年が経った今も河川敷に花をたむけている。
ミステリー・推理
公開:20/08/27 09:30
更新:20/08/27 09:32

森川 雨

ショートショートには不向きな書き方かもしれませんが、こちらで修行させていただきたくお邪魔しました。

よろしくお願いします。

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