『パラレルビジョン』 ―人魚肉喰らった終身刑の囚人の男

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 外部との接触を全て絶たれた独房に収監された終身刑受刑者は後悔していた。「人魚の肉なんて食べなければよかった」と。収監当初は、罪を償おうと思った。しかし永遠に償うだけの未来に意味は無いと気づいた。後ろを向くより前を向くべき、と思った。
 だが、外部へ働きかける機会は完全に奪われていた。その自分が前を向くには一体なにをすればいいというのだろう?
 考える時間はたっぷりあった。
 考えるとは、過去を材料にして起こり得る、起こし得ることの可能性を広げることだ。可能性だなんて実に前向きじゃないか!
 過去が記憶であり思い出としてあるのなら、そこにしか未来は無いのだということに気づいた。この現在だけが永遠に続く独房で、自分の過去を精査し、発掘し、補完し、全ての因果を暴き、徹底的な細部まで再現し、しかもそれを保持し、発展させ続けること。それこそが世界であり未来だと思った。
 今、全ては私の中にあった。
SF
公開:20/08/28 10:01
シリーズ「の男」

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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